2013年5月29日水曜日

本の借り方

 ある人に、「○○という本、面白いから図書館で借りてみて」と言ったら、「今1冊借りていて読み終わらないから、返してから借りるわね」と答えました。私が「何冊借りてるの?」ともう一度聞くと、その人は「1冊よ。長くて読み終わらないのよ」と。「それ、面白いの?」と私。「つまらないから読み進まないんだわね」と彼女。
 私が数年前に、それまで司書のいなかった小学校に司書として初めて着任した時、真っ先に子どもたちに指導したことは、「本は面白そうだと思ったものはどんどん借りましょう。読んでつまらない本だったらすぐに返して、次の本を借りましょう」ということでした。このことは子どもよりも先生たちをびっくりさせました。「最後まで読みましょうと指導していた」と先生たち。先に登場した知人は、そういう指導を受けた人の一人だったのかも。
 つまらない本を読み続けるほど苦痛はことはないし、時間が無駄になります。一生のうちに何冊の本が読めるのか計算してみると(したことないですが)、どうせ読むなら面白い本を読みたいと思うはず。必要に迫られて読む資料や学術書は別として。
 つまらなかったら返していいと言われた子どもたちは、結局借りては返し…の繰り返しになって読む力がつかないのではないか、という大人の心配をよそに、自分自身で図書館中の棚から自分の好きな本を探すことに情熱を傾け、興味のある本を自律的に読むようになりました。(これをやるには、借りた本の冊数を競わないという条件が必要ではありますが。)
 公共図書館でも、「借りたら必ず読まなくてはいけない」などと律儀に思い込まず、どんどん借りて片っ端から返してもいいのです。新潟市の図書館は1回に10冊まで、期間は2週間まで借りられます。私はたいがい10冊の枠が常に満杯状態。なんとなくそれが習慣になってしまっていて、借りてる本が少ないと落ち着かなかったりして。
 広告や新聞書評で見て気になった本、友人たちにすすめられた本、ネットなどで自分で探した本などは、すぐさま「新潟市の図書館」のホームページから資料検索し、近所の西川図書館に置いてあるものなら借りに行き、ほかの図書館にしかなければ予約します。予約も1回に10冊までで、これも満杯になることしばしば。
 借りた本のうち、小説やエッセイなどはわりと最後まで読むことが多いですが、資料として使いたいと思った本は、必要なところだけコピーしたり書き写したりして、ご用済みになったらすぐ返却。背表紙とまえがき、あとがきだけ読んでお返しする本も。逆に本が素晴らしすぎて、これはぜひ自分の手元に置きたいと思ったらアマゾンに注文して、借りた本はすぐ返します。
 こういうユーザーは、図書館にとって迷惑でしょうか…とんでもない、図書館の評価は一にも二にも「貸し出し冊数」にかかっています。背表紙だけ読んで返しても、1冊は1冊。読書は読書。どんどん借りてくれるユーザーこそ、図書館の強力な支え手であるはずです。
(2012年7月記)

2013年5月27日月曜日

読書会

新潟市立月潟図書館 館内
 「読書は1人でするもの」とずっと確信していた私は、「読書会」などというものは胡散臭い集まりだと思っていました。ところが、10年以上前に当時住んでいた西内野地区で「子どもが幼稚園児だったときの保護者仲間」で始めたという読書会に誘われ、以来月1回楽しみに参加しています。現在メンバーは6名。平均年齢は60ウン歳? つまり、もう30年以上も続いているのです。
 もともと子どもの本の勉強会のような形で、1冊の本、あるいはひとりの作家をテーマに決めて、全員が同じものを読んできて話し合ってきましたが、最近では「エネルギー不足」の理由から、自分が読んだ本について自由に語り合う会になっています。この会の魅力は、筋金入りの本好き人間が紹介してくれる多彩な本を味わうとともに、持ち寄られる山ほどのお菓子を味わえること。心身共にエネルギー補給のできるひとときです。
 2年前からは、新潟市立西川図書館で「ブッククラブ」という名称で月1回の読書会が始まり、参加しています。2009年に同図書館で行われた講座「名探偵ホームズの謎」の終了後、受講生から「引き続きホームズをみんなで読み続けたい」という希望が出て、シャーロック・ホームズシリーズ(全60篇あります)を1篇ずつ読み合う読書会を始めたのがきっかけです。その後、ホームズだけでなくどんな本でもよしとするスタイルに変わり、現在に至っています。
 西川図書館は新潟市の西南端に位置する西蒲区の基幹図書館ですが、このブッククラブには、西蒲区内でも巻など西川地区以外の地域、また隣接する西区、さらに中央区、東区、南区、秋葉区、加茂市…と遠方からの参加者が集まります。国道116号線沿いにあり、駐車スペースもたっぷり、JR越後曽根駅からも徒歩で来られるという立地条件も幸いしているのでしょう。
 30年続いている会、遠くからでも参加する会…その魅力は、やはり人と本を読み合う楽しさなのだと思います。たくさんの本を知ることができるという利点、自分が読んで面白かった本について人に伝えられるという満足感、そしてなによりも「本」を肴にあれこれと話が盛り上がる面白さ!
 さらに私は、大震災以降ふと気づいたことがありました。地震・原発事故後、出されるべき情報が遅れ、あるいは様々な情報が錯綜して、何が真実かがわかりませんでした。そのようなときに、読書会に参加している人たちがとっていた行動は、情報を自ら積極的に集めていたということでした。「政府の発表だけでは原発事故の正しい情報はわからない」と言い、本や雑誌、インターネットなど、あらゆるものを読みまくり、そして集めた情報の中から自分なりの判断をくだす─そういう態度の人たちが「本読み人」の中には多いと実感しました。

 私は昨年まで学校司書として、子どもたちにとって読書とは何なのかをずっと考え続けてきましたが、この大人たちの読書態度を見て、「読書の先にあるもの」が見えた気がしました。大ピンチの日本ですが、まだまだ捨てたもんじゃありません。

2013年5月23日木曜日

複製絵画貸し出し

Ariel & Taeping 

 新潟市立西川図書館は「複製絵画」の貸し出しを行っている珍しい図書館です。ときどきホールや館内に展示されているのを見ながら、「借りてみようかなあ…」と思いながらも、なんとなく面倒な気がしてこれまで臆していたのですが、先日カウンターの司書の方に勧められて、初めて1枚の絵を借りて帰りました。
カタログを見せていただいて、真っ先に目についたのが帆船の絵でした。私は無類の帆船好きなのです。ひところ「帆船小説」を片っ端から読んでいました。
「お待ちください」と言って司書の方が奥から出してくださったものを見てビックリ仰天。カタログには絵の大きさもちゃんと書いてあったのに、よりによって一番大きな絵を選んでしまったのでした。ふうふう言いながら司書の方が運んできてくださったのを今さら取り替えてとも言えず、畳半畳ほどもある絵をかついで帰ってきました。
玄関に年がら年中掛かっている春の角田山を描いた小さな水彩画をはずして、この立派な絵─モンタギュー・ドーソンの「エリエル号とタッピング号」をドーンと靴箱の上に立てかけました。(荷重が心配でフックには掛けられず。)波しぶきを上げて走る帆船の絵が、金の装飾の施された額縁に収まっています。すごい迫力です。
毎日玄関を出入りするたびに、この絵をニンマリ眺めていたのですが、この競い合うように走る2隻のクリッパー帆船を見ているうち、以前読んだ小説を思い出しました。ジョン・メイスフィールドの『ニワトリ号一番乗り』(福音館書店)は、茶貿易が盛んだった19世紀、イギリスの帆船が中国から新茶を積んでロンドンに真っ先に届けるために競争をする物語です。この物語はフィクションですが、もしかするとこの絵に描かれている帆船は実在したのではないか…とふと思い、調べてみました。
やはり、Ariel Taeping という2隻のクリッパー帆船は実在し、1866年に茶貿易競争(Tea Race)で接戦の大レースを繰り広げ、タッピング号がエリエル号よりわずか20分早くロンドンに到着したという逸話が語り継がれているようです。改めて絵を見ると、並走する2隻が死闘を繰り広げているかのような迫力があります。
なんで図書館で絵なんか貸し出すんだろなあ…と実は怪訝に思ってもいました。しかし1枚の絵もまた「本」につながっていくものなのですね。実は「エリエル号」と聞いて真っ先に思い出していたのは、リチャード・ケネディの『ふしぎをのせたアリエル号』(徳間書店)という児童書です。この本は子ども向けにしては4,5センチも厚さのある大冊なのですが、ぐいぐい読ませるハラハラドキドキの冒険物語で、かつて私が勤めていた小学校では3年生以上の子どもたちに大人気でした。この船の名前も、もしかすると、わずかの差で敗れたことでかえって勇名をはせたAriel からとったのかも知れないなあ…などという想像もしながら、1枚の絵をたっぷりと楽しみました。
(2012年6月記)

2013年5月22日水曜日

配架ボランティア





 今年の5月から、私は西川図書館の「配架ボランティア」に参加しています。図書館はいつも利用するばかり、せいぜいお手伝いといっても「口先だけ」だったので、なにか「体を張った」お手伝いがしたいと思っていました。「植栽ボランティア」はどうも危ない。切ってはいけない枝を切りまくりそう。かつて学校図書館の仕事をしていた私がお役に立てそうなのは、利用者から返された本をもとの棚に戻すという「配架ボランティア」だろう。そう簡単に考えていましたが、朝9時から10時までの1時間、広い西川図書館のあっちこっちの棚に重量のある本を持って歩き回ると、汗びっしょりの重労働です。司書の方たちは毎日これをやってるんですね。大変なことです。
 そうか、これは運動なんだと思い直し、そうであるならパンプスをやめてスニーカーに履き替え、車をやめて徒歩で通うことにしました。歩いてみればわが家からわずか10分強の距離です。私にとって、これまで本を読みだすと椅子から動かなくなるので、「本」=「不健康」のイメージを自分で植えつけていたのですが、「本」が運動になったという経験は初めてでした。まずこれがボランティアを始めたメリット・その1。
 メリットその2は、なんといっても本を戻しながら図書館中の本を目にすることができるということです。白状しますが、私の仕事ぶりは遅くてどうにもなりません。目に留まった本を無視することができないのです。ひどい時には読んでます。すみません。この誘惑に打ち克つにはもう少し修行が必要です。
 ボランティアが終わった後、「目に留まった本」は早速借りて帰ります。私はインターネット愛用者なので、この本が読みたいと思ったら図書館のHPからすぐに予約を入れるという借り方が多く、図書館によく来るわりにはカウンターで受け取ってすぐ帰るような利用をしていました。スーパーで買い物する時も、メモを持って行って必要なものだけ買って帰るような気短かでせわしない人間です。でも、書架を眺めながら「へぇー、こんな本があったんだ!」という感動を、ボランティアを始めてから味わえるようになりました。
 もうひとつのメリットは、ほかの利用者の方々が読まれた本を戻すので、どんな本が読まれているかがなんとなくわかるということです。私は本屋でもないので、これを知ったからといって利点というほどのものではないのですが、図書館をより多くの市民に利用してもらいたいという思いで図書館に関わる活動を続けてきたので、「ああ、こんな本が利用されているのか」というのを知ることは、今後の図書館の在り方を考える上で貴重な材料になっていくようにも思います。
 今のところ、週に1、2回しか通えていませんが、行くと必ず数名のボランティアの方々が来られています。それでも開館までの1時間でワゴンに積まれた本を全部戻し終えることができるのは、たまにしかありません。メリットいっぱいの「配架ボランティア」に、ぜひたくさんの方々が参加してくださることを願います。
(2012年6月記)