2014年1月20日月曜日

おまかせ図書館

 最近「おまかせ民主主義」という言葉をよく耳にします。日本は民主主義社会であると言っても、国民が政治家や行政におまかせしっぱなしで、形だけの民主主義を作ってきたのではないか、という反省から、このような言葉が使われるようになったようです。
 その意味では図書館にも、利用する市民が行政に運営をおまかせしてただ使っている、あるいは全く使っていないという状況があるように思います。財政難の自治体で、「使われない図書館」の予算が真っ先にカットされていくその責任は、行政の努力不足だけでなく、市民の「意志不足」にも原因があるのではないでしょうか。自治体の政策を決めていく主体は、本来市民であるはずです。その市民はいったいどのような声を上げていくべきなのでしょうか。

 図書館について、「どのように利用したいか」を問うアンケートを市民全員にとってみることを想像してみましょう。必ず「本音」で答えてもらいます。私が想像する答えは…

・試験前の勉強場所として使いたい(うちじゃ落ち着いて勉強できないんだよ)
・新聞や雑誌をたくさん置いてほしい(新聞・雑誌はとらないで済む)
・人とおしゃべりができるといい。お茶も飲めるといい。(喫茶店より安くて長居ができる)
・暇なときにくつろいだり居眠りしたりしたい(1人で家にいてもすることがないし…)
・ベストセラーはたくさん置いてほしい(買わないで済むように)
・マンガを置いてほしい(図書館ってマジな本しかないんだよな)
・小さい子どもを連れて行かれる場であってほしい(屋内の遊び場が少ないので)
・おしゃれな雰囲気にしてほしい(気持ちよく過ごせる場がほしい)

 図書館を積極利用している市民が少数である自治体では、たぶん上位はこのような回答が占めるのではないでしょうか。

 先日、知人が佐賀県武雄市図書館を見学に行き、そのレポートを送ってくれました。この図書館はTSUTAYA(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)に運営委託をしたことで全国から脚光を浴びています。知人のレポートを読むと、上記の市民ニーズをある程度満たしているように思います。
 行政が市民のニーズをとらえ、そのニーズから施策を実行することは正しいと思います。私は、武雄市図書館の新しい挑戦を評価しますし、日本の図書館界に投げかけたものは大きいと思います。ただし、これらの市民ニーズが「なぜ図書館という場で実現されなければならないか」について、今後図書館運営に携わる人たちがリードしながら、考えを深めていくべきでしょう。
 私は上記の市民ニーズを否定する気は毛頭なく、むしろ大切に取り上げていくべきと思っています。しかし、この「表面的ニーズ」の奥にある「潜在的ニーズ」を発見し、顕在化していくことが大事ではないかと思っています。人々は上記のニーズをなぜ「図書館で」実現したいのか…想像してみましょう。

・知的な雰囲気が好き
・いろいろな知識や教養を得たい(それを仕事や生活に役立てたい)(人から賢いと思われたい)
・本をたくさん読んでみたい。面白い本に出会いたい
・社会の役に立ちたい。(人から必要とされたい)(地域の一員として活躍したい)
・自分の能力を向上させたい(仕事や勉強に役立てたい)(資格を取りたい)
・自分の子どもを賢い子にしたい
・人と違うことをやってみたい
・自分と同じ考えの人を探したい

 まだまだたくさんあると思います。図書館利用者は、学校や仕事場あるいは家庭といった日常所属する組織から離れてやって来るわけですから、個人としての潜在的欲求を抱えており、それをどう引き出していくかは「仕掛け」が必要です。それを仕掛ける「リーダー」は、とりもなおさず図書館で働く司書をはじめとする図書館職員であると同時に、利用者自身でもあるべきです。図書館職員と図書館をよく利用する市民とが協働して、図書館の本来的な機能が発揮されるような利用・活用へと市民を導いていくことで、地に足が着いた図書館の永続的な発展が可能になるのではないでしょうか。

 図書館の「リーダー」が仕掛けていくものとしては、いろいろなことが考えられます。日常的に行われている図書の展示。利用者の潜在的ニーズをつかんで、これにひと工夫加えることにより、書架の本が飛躍的に動き始めるかもしれません。ボランティアの協力を得ながらさまざまなイベントも企画できるでしょう。内容は「本」にこだわる必要はありません。なぜなら、世の中のありとあらゆるものが本の形で図書館にあるのですから、何を切り取っても図書館につながらないものはないはずです。もちろん広報も積極的に行います。地域には編集技術や発信力をもつ人がたくさんいるはずです。そういう市民の力も借りれば百人力。とにかく、図書館に来る人だけを相手にしていては、図書館職員は仕事を半分しかやっていないと言われても仕方ないでしょう。そのほかの図書館を知らない多数の市民に知らせていく、その人たちを図書館に呼び込む、そのための「仕掛け」をたくさん打っていく必要があります。それには、図書館職員は地域に出かけていき、地域の情報やニーズをつかみ取ることが必要でしょう。ほかの公共施設─学校や公民館、福祉施設、体育施設などとの連携も大切です。

 図書館は国の施策としてなぜ無料原則で国民に提供されているのでしょうか。原点はやはり「民主主義」を堅固なものにするためであったはずです。民主主義とは、国民が主体となるということ、国民ひとりひとりが自分の考えをもって発言し、自分の生き方を選び取り、それによって民主的な国家が安定的に運営されていくということです。そのための知識や情報を自ら得ることのできる場が、図書館なのです。

 そのような、民主主義の砦ともいえる図書館を行政に「おまかせ」してきたこと、あるいは市民から「おまかせ」されてきたことを反省し、新しい発想と仕掛けで図書館をあるべき方向に導いていきたいと願う年の初めです。
(2014年1月記)