2013年8月30日金曜日

事業仕分け

 2012年の9月1日、2日に新潟市の「事業仕分け」が行われました。今回「図書館」も仕分けに取り上げられることになり、その部分を傍聴してきました。会議室の一画に、国の仕分けと同じように四角くテーブルが並べられ、そこに仕分け人と担当部局職員、進行役が座ります。傍聴席はテーブルの一辺のうしろに設けられていて、この図書館の班では十数人が参加していました。まず進行役が、今日の論点として「業務委託の可能性」と「地区図書室の見直し」を挙げ、それについて話し合ってほしいと述べました。なぜこの2点が論じられるべきなのか説明はなく、唐突な感じがしました。
 仕分け人には事前に資料が配られており(傍聴者にも配布)、まず仕分け人から「市内に19の図書館と27の地区図書室があるが、使いにくいという市民の声は上がっているか」との質問が出されました。これだけの数の図書館・室があっても、広い新潟市ゆえ徒歩や自転車で行かれる範囲に図書館がない市民はたくさんいます。図書館側は、不満の声はあるが、その改善策については検討中と答えました。この不公平感を解消する方法の一つとして、オンライン化があげられますが、それについての質問も出ました。蔵書の少ない小さな図書室でも、オンライン化することで市内中の本を取り寄せることができるようになります。しかし利用の少ない図書室は閉じていく方向性が示されました。これらの問題は、経費の問題よりも市民全員に行きわたるサービスの問題として語られるべきことですが、そういう話の煮詰まり方はしなかったように思いました。
 次に、「課題解決型のサービスとは何か」という質問が出ました。これは言いかえると、職員が司書という専門職でなければいけない理由は何か、という問いかけであると思いました。つまり、カウンターでの貸出業務は、今や機械化されてアルバイト職員でもできるようになっていますが、利用者の質問や相談にこたえるレファレンス(調査)業務は専門職でないとはたしてできないものなのか、という問い詰めです。この問題に対して、「サービスの品質を下げずに民間業務委託ができるのではないか」との発言があり、例えばビジネス支援のための相談は「餅屋は餅屋(産業振興財団)に任せればよい」という意見も出たりしました。図書館のレファレンスとビジネス相談との違いについては説明されませんでした。

 全体の印象として、なんだかおかしな雰囲気を感じました。「事業仕分け」は私たちの税金で運営されている市の事業やサービスが正しく市民のために役立っているかという点検であると思っていましたが、これは市の「台所」の切り詰めを市民が手伝ってあげているという感じがします。なぜ市民が行政に加担するのか…? 一方、私たち図書館利用者は、答弁する図書館職員たちの背中に向かって「がんばれ!」と叫んでいました。それもおかしなことだと思いました。私たち利用者も市民として図書館の仕事のありかたを厳しく問わなければいけないのに、ここで「がんばれ!」と言わない限り、図書館予算がどんどん切り詰められて貧弱になっていってしまうという危機感を持たざるを得ませんでした。しかしその声援もむなしく、答弁内容は不十分で迫力なかったし、図書館を利用したことがあるとは思えない仕分け人たちの一方的な思い込みで議論は進み、多数決で「民間活力拡大」の結論となりました。
(2012年9月記)

2013年8月1日木曜日

図書館との共催

 参議院選挙が終わりました。今回の選挙から、ネットを使っての選挙運動が解禁され、「選挙や政治について語ろう」という機運が少し盛り上がったように思います。
 その選挙前に、東京都千代田区立日比谷図書文化館でひとつの「トラブル」が起こりました。7月2日に、同館でドキュメンタリー映画『選挙2』(想田和弘監督)を上映し、監督と映画の主人公である山内和彦さんとのトークイベントが開催されました。当初この催しは、映画の配給会社・東風と図書館の指定管理会社のひとつである図書館流通センター(TRC)の共催の形で実施される予定でした。しかし、開催の直前になってTRCから中止したいと東風に通知されました。理由は、「千代田区から懸念が示され、参院選前にセンシティブな内容の映画を上映することは難しい」(7月2日朝日新聞東京版)というもの。これに対し、想田監督と東風はTRCおよび千代田区に抗議しましたが、結局東風の単独開催という形で催しは実施されました。
 突然の共催中止を申し入れたのは指定管理者であるTRCですが、想田監督はブログの中で「いつでも区との契約を打ち切られかねない弱い立場の存在である」指定管理者の事情を考えると、このような決定を下した主体は千代田区で、「事実上の検閲」であり「表現の自由を脅かす重大な問題である」と厳しく指摘しています。
 この事件から、ふたつのことを考えさせられました。
 ひとつは、図書館の「共催(あるいは主催)事業」はどうあるべきかという問題です。今回の催しについては、時期と内容について懸念が示されました。その懸念は果たして図書館として妥当なものなのでしょうか。図書館は、日本図書館協会が定める「図書館の自由に関する宣言」にあるように、資料収集にあたって「著者の思想的、宗教的、党派的立場にとらわれて、その著作を排除することはしない」など、国民の知る自由を保障するために偏りない資料の提供をすることをうたっています。図書館で行う「事業」についても同様の原則があてはめられるべきでしょう。
 もうひとつは、近年急速に増えている指定管理者による図書館運営における、指定管理業者と、図書館を管理する自治体行政との関係です。図書館が自治体直轄で運営されている場合、図書館職員は公務員であり、多くの場合司書資格を持つ専門職が運営にあたっています。専門職であれば、先に述べた図書館としての「原則」を知っているはずですが、現場を指定管理者に任せている場合は、図書館の管理運営責任は行政の一部門になり、そこに専門職は介在しない可能性は高くなるでしょう。そして想田監督が指摘するように、指定管理業者は自治体から仕事をもらうという弱い立場にあるため、図書館業務に精通するTRCのような業者であっても、独自の自由な判断を貫くことは難しくなるでしょう。

 しかしいずれにしても、選挙や政治について議論し合おうという旗を振っても、特定の思想の支持とみられることを極端に恐れ、常に自己規制しがちな日本の行政の体質が依然として問題であるように思います。
(2013年8月記)