2013年8月1日木曜日

図書館との共催

 参議院選挙が終わりました。今回の選挙から、ネットを使っての選挙運動が解禁され、「選挙や政治について語ろう」という機運が少し盛り上がったように思います。
 その選挙前に、東京都千代田区立日比谷図書文化館でひとつの「トラブル」が起こりました。7月2日に、同館でドキュメンタリー映画『選挙2』(想田和弘監督)を上映し、監督と映画の主人公である山内和彦さんとのトークイベントが開催されました。当初この催しは、映画の配給会社・東風と図書館の指定管理会社のひとつである図書館流通センター(TRC)の共催の形で実施される予定でした。しかし、開催の直前になってTRCから中止したいと東風に通知されました。理由は、「千代田区から懸念が示され、参院選前にセンシティブな内容の映画を上映することは難しい」(7月2日朝日新聞東京版)というもの。これに対し、想田監督と東風はTRCおよび千代田区に抗議しましたが、結局東風の単独開催という形で催しは実施されました。
 突然の共催中止を申し入れたのは指定管理者であるTRCですが、想田監督はブログの中で「いつでも区との契約を打ち切られかねない弱い立場の存在である」指定管理者の事情を考えると、このような決定を下した主体は千代田区で、「事実上の検閲」であり「表現の自由を脅かす重大な問題である」と厳しく指摘しています。
 この事件から、ふたつのことを考えさせられました。
 ひとつは、図書館の「共催(あるいは主催)事業」はどうあるべきかという問題です。今回の催しについては、時期と内容について懸念が示されました。その懸念は果たして図書館として妥当なものなのでしょうか。図書館は、日本図書館協会が定める「図書館の自由に関する宣言」にあるように、資料収集にあたって「著者の思想的、宗教的、党派的立場にとらわれて、その著作を排除することはしない」など、国民の知る自由を保障するために偏りない資料の提供をすることをうたっています。図書館で行う「事業」についても同様の原則があてはめられるべきでしょう。
 もうひとつは、近年急速に増えている指定管理者による図書館運営における、指定管理業者と、図書館を管理する自治体行政との関係です。図書館が自治体直轄で運営されている場合、図書館職員は公務員であり、多くの場合司書資格を持つ専門職が運営にあたっています。専門職であれば、先に述べた図書館としての「原則」を知っているはずですが、現場を指定管理者に任せている場合は、図書館の管理運営責任は行政の一部門になり、そこに専門職は介在しない可能性は高くなるでしょう。そして想田監督が指摘するように、指定管理業者は自治体から仕事をもらうという弱い立場にあるため、図書館業務に精通するTRCのような業者であっても、独自の自由な判断を貫くことは難しくなるでしょう。

 しかしいずれにしても、選挙や政治について議論し合おうという旗を振っても、特定の思想の支持とみられることを極端に恐れ、常に自己規制しがちな日本の行政の体質が依然として問題であるように思います。
(2013年8月記)

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