2014年4月7日月曜日

電子書籍

 私は本を読むことよりも、本という物体が好きで、図書館や古本屋のそそり立つ黴臭い書架の間を歩いたり、壁中本棚で囲まれているような家に行ったりすると、とても気分が高揚します。本の1冊1冊の装丁や活字の並べ方、紙の手ざわりも「本」の味わいのうちです。だから電子書籍なるものが出始めたときは、「そんなもん、本じゃない」と鼻でせせら笑っていたものでした。
 しかし最近、わが夫が隣のベッドで電気もつけず、小さなまな板みたいなものをツルツルといじりながら「読書」しているのを横目で見ているうちに、「ちょっと触らせてよ」と言わずにおれない誘惑に駆られました。
 その小さなまな板みたいなものは、いわゆる「タブレット端末」と呼ばれているもので、電子書籍専用のものと、iOS(Apple社)やAndroidGoogle社)などのOS(インターネットに接続するための基本ソフト)を搭載したよりコンピュータの性能に近いものとがあります。価格は1万円~5万円ぐらいまで。このタブレットを購入すれば、電子書籍(無料も有料もあり)をダウンロードでき、それを画面上で読むことができるというわけです。
 さて、バカにしていた電子読書、実際にやってみたら意外にも快適でした。特に最近老眼鏡を作った私は、酸化して黄ばんだ紙に2段組みで印刷されているような本はすでに敬遠し始めていたのですが、このタブレット端末の文字のなんとくっきり見えることよ! 画面が発光するタイプのものは、暗いところでも楽に読むことができます。字の大きさも自由自在に変えられます。
 大きさは新書版ぐらいのものから大学ノートぐらいのものまでいろいろありますが、単行本一冊持ち歩くより軽量であることは間違いありません。しかもタブレットには何十、何百冊の電子本を入れておくことができるのです。
 老人にとって目に優しいだけでない、もう一つのメリットがあります。最近、私の周辺で「断舎利」を断行する友人(私の友人ですから5、60代が多い)が増えています。年を取るとやらねばと思う身辺整理。本も多くなりすぎると探すのが面倒になってくる、いやどこに入れたのか記憶がなくなって見つからない…電子書籍はそういうお悩みをも一挙解決に導くかもしれません。電子書籍で手に入るのなら、紙の本は潔く処分してしまえ!ということです。
 というわけで「年をとったら電子書籍」です。さらにOS搭載のタブレットなら、テレビ、ラジオ、音楽の試聴も可能、メールやテレビ電話もできるし、カメラにもなり録音もできます。(よっていろんなものが捨てられます。)パソコンはちょっと面倒という人にも手軽に使えることと思います。
 「電子書籍時代」はすでに足早にやってきています。現在紙の本を並べている図書館は、それにどう対応すればよいのでしょうか。人々が、家で電子書籍を読むようになれば、図書館に足を運ぶ人はますます減っていくのでしょうか…。

 私は、本の専門機関である図書館には果てしなく仕事はあると思います。もしも電子書籍が一般化して世の中から紙の本が消えても、図書館、そしてそこで働く司書は、本の水先案内人として人々に本の情報提供をしていく役割を負い続けることでしょう。それこそ前頁にも書いたように、「ありすぎて選ぶことができない」状況が、現在の出版状況であると思います。利用者のニーズをつかんで選りすぐりの本を提供する─厳しい資料購入予算であればあるほど、司書の選書力が期待されることでしょう。
(2012年12月記)