2013年10月21日月曜日

地域づくりを担う図書館

 2012年10月19日に行われた「新潟県公立図書館協議会委員連絡協議会」に参加しました。都合により遅刻して行ったため、初めの基調講演は途中からしか聞けませんでしたので、そのあとの事例報告についてお伝えします。
 群馬県高崎市立群馬図書館館長の秋山美和子さんが、地域との連携により図書館が様々な事業を展開した事例を報告されました。行政職である秋山さんが館長として着任してからの4年間、「地域づくり」のために行った事業は、実にユニークなものでした。
 まず、子どもたちのための「夏休み宿題相談」を教員の協力を得ながら実施しました。理科自由研究と読書感想文についてのパンフレットを作成。そのパンフレットを活用しながら「わくわく自由研究」「すらすら読書感想文」などの講座を夏休みに行ったというもの。
 次に高崎市制110周年記念事業として「地域のたからもの発見隊」の活動を地域の人たちとともに行いました。これはクイズや、地域のたからものは何かを問うアンケートを実施し、その結果を見て関連講演会などを企画して、パンフレットも作成するという、エネルギッシュな活動でした。
 さらに、地域の昔話や歴史などを公民館と連携して紙芝居にしたり、地元出身の若手作家の講演会の開催など、正規・非常勤合わせわずか11人の職員体制ながら、地域の人々や関連機関と連携しながら多彩な事業を展開しているとのことでした。
 図書館が行う「事業」というと、本に関連するもの─例えば作家の講演会や読み聞かせ講座、あるいは絵本原画展など─というイメージが強かったのですが、秋山さんの事例報告を聞いて驚いたのは「本」の話は前面に出てこないということ。まずは、「地域に聞く」という徹底した姿勢です。図書館が地域に役立つために姿勢を低くして手を差し伸べているという感じを持ちました。
 私たちはつい、「図書館といえば本」という固定観念にとらわれます。図書館は本を貸し出すところですからそれは当たり前ですが、じゃあなぜ私たちは本を読むのか、というところまで考えたことがあっただろうか…と反省させられました。日々、地域の中で生活している私たちが、図書館を利用する目的は何なのか。本に何を求めるのか。本から何を得られるのか。本をよく読み、図書館をたくさん利用する人なら、その答えを知っています。でもまだまだ図書館が自分にとってどう役に立つのか知らない人々が地域の中にはいっぱいいます。その人たちに呼びかけていくためには、図書館は「姿勢を低くして」地域の中に入り込み、地域の声を聴かなければいけないのだ、と思わされました。
 秋山さんは、図書館の通常業務の中でこのような事業を展開していくのは、正直に言って職員にとっては大変負担であるとおっしゃっていました。しかし、図書館の職員だけが頑張るのではなく、利用者、ボランティア、地域の人々、学校・公民館など関連機関等と協力し合うことで、大きなエネルギーになっていくことを示されました。そこで旗を振るのが館長であることは間違いありませんが。
 新潟市の図書館は、先日「事業仕分け」の俎上に上がり、民間活力導入拡大が求められ、ますます「守り」の態勢に入っていくのではないかと心配しています。こういう時であるからこそ、「地域に役立つ図書館」さらには「地域づくりを担う図書館」として積極的に打って出なければいけないと思います。

図書館を拠点に活動するグループによる民話語り(新潟市南区)
 秋山さんは、「セレンディピティ」という言葉を口にされました。これは偶然に起こったことや出会った人を自分の運命の中に引き入れるというような意味の言葉です。「会話の中にヒントがある」「出会いを大切にする」「なんでも挑戦する」ことを大事にされているとのこと。前項の立石さんのお話にも通じますが、偶然の具体的な人との出会いから、人と人とがつながり、社会が大きく動いていく─そのようなこの世の「真実」を経験しながら、図書館が生き生きと華やいでいくことを期待します。
(2012年10月記)