2013年9月6日金曜日

図書館本

 『図書館戦争』(有川浩)のヒットがきっかけでしょうか、このところ図書館を舞台にしたり、司書が登場する小説や漫画が次々と出版されています。

 『話虫干』(小路幸也 筑摩書房 20126月刊)という変わったタイトルの意味するものは、図書館の蔵書が「話虫」によって勝手に書き換えられるのを、図書館員たちが虫干し(曝書?)して退治し、本を元に戻すということ。舞台となる図書館で書き換えられていたのは、夏目漱石の『こころ』。「心底物語を愛してやまない人間の魂」が物語を自分のものにしようと入り込んで、めちゃくちゃにしてしまいます。『こころ』の中に、漱石はもちろん、エリーズ(鴎外の『舞姫』)、ヘルン先生(小泉八雲)、果てはシャーロック・ホームズまで登場します。そこへ現代の図書館員たちが乗り込んでいって、話を修正しようと躍起となって活躍するという、SFというよりゲームのようなお話です。荒唐無稽な話として楽しめますが、「ゲーム」のきまりごとがよくわからず、頭がこんぐらかりました。

 『雨あがりのメデジン』(アルフレッド・ゴメス・セルダ 宇野和美訳 鈴木出版 201112月刊)は児童書です。コロンビアの都市メデジンの町はずれに住む少年カミーロは、酒浸りの父に命じられて酒を買いに、親友のアンドレアスと町へ出かける日々。あるとき二人は町の立派な図書館に入り込みます。カミーロは本を盗んで売り、その金で酒を買うことを覚えます。しかし司書のマールさんは、カミーロの盗みを知っていて本を貸し出していました。3冊目を盗んだとき、マールさんは「それはつまらないわよ」と言って面白い本と取り替えてくれました。カミーロはついにその本を読みます。子どもの可能性を信じて本を手渡し続ける司書の姿勢に、感動を覚えます。


 このあとご紹介する2冊は、漫画です。『図書館の主』(篠原ウミハル 芳文社 20118月~現在3巻まで刊行中)は、私立児童図書館が舞台。子どもだけでなく、いろいろな人生を背負った人たちがふらふらっと入ってきます。無愛想でクールな御子柴は、実は本に対する熱血漢できちんと仕事をする司書。彼が訪れた人(子どもも大人も)に手渡す児童書はハートに届いて彼らの行動や生き方を変えていきます。本をめぐっての名言満載のこの漫画、初出は『週刊漫画TIMES』の連載とはちょっと驚き!

 もうひとつは『夜明けの図書館』(埜納タオ 双葉社 201110月刊)。こちらは地方都市の公共図書館が舞台。主人公は新人司書の葵ひなこ。これがユニークなのは、テーマが「レファレンス」なのです。つまり利用者からの質問や調査依頼に、新人司書が必死に応えていく話が4話綴られています。たとえば、子どものころにその町に住んだことのある老人が、思い出深い郵便局が映っている写真がないかと探しに来ます。経理担当の職員(行政職)に嫌味を言われながらも、葵は結局みんなを巻き込んで、写真の載っている資料を探し当てます。公共図書館の事務室内の様子や諸事情がよくわかるのも、この本の楽しみのひとつ。


 こんなにも図書館や司書を扱った本が増えてくると、図書館は人気スポット、司書はあこがれの職業になるかも。ああ、それなのに、どこもかしこも正規司書の求人はほとんどないというこの日本の現状はどうしたらよいものでしょうか。
(2012年9月記)



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